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東京高等裁判所 昭和53年(行コ)53号 判決

控訴人

山城孝司

右訴訟代理人

田村徹

福田光宏

被控訴人

香取郡西部土地改良区

右代表者理事長

中里高正

右訴訟代理人

滝口稔

主文

原判決を取り消す。

控訴人の本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、第二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し香取郡神崎町小松字寺前七六三番田七一七平方メートルの換地として同所五七六番一田六九二平方メートルを指定した処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、本案前の申立として主文第一、第二項同旨の、本案の申立として控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張と立証は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(被控訴人)

第一  本案前の主張

一  控訴人は、本訴において、被控訴人が昭和四四年一月一〇日付換地処分通知書により行つた土地改良法による換地処分の無効確認を求めているのであるが、行政処分の無効確認訴訟は、行政事件訴訟法第三六条の規定により「無効等確認の訴えは、当該処分……に続く処分により損害を受けるおそれのある者、その他当該処分……の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分……の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる」ものとされているところ、控訴人が本訴を提起したのは昭和四八年七月一九日であり、既に換地処分に基づく登記等の手続がすべて終了しているので、右換地処分に続く処分により控訴人が損害をうけるおそれがある、ということはできない。また、控訴人は、右換地処分の無効を前提として、控訴人主張の従前の土地につき換地処分をうけた者を被告とする土地明渡及び土地所有権移転登記抹消登記請求等の現在の法律関係の訴えを提起することができるわけである。

よつて、控訴人は前記換地処分の無効確認を訴求する原告適格(訴の利益)を有しないので、本件訴の却下を求める。

二  控訴人は、仮に本件換地処分の無効を前提として、従前の土地の所有権を主張し、土地明渡等の請求が可能であるとすれば、控訴人の従前の土地部分だけに限り、土地改良事業や全体的換地計画が排除される結果となるので、土地改良法の趣旨・目的に根本的に反することになり、また、かかる訴訟が許されるとすれば、あたかも従前地の位置、形状を同じくする換地処分がなされたと同様の請求が許されることとなるから、かかる訴訟は認められず、本件換地処分の無効確認訴訟は適法であると主張している。しかし、右主張は以下に述べるとおり理由がないものと思料する。

(1) 争点訴訟または無効確認訴訟のいずれの場合においても、控訴人に対する本件換地処分の効力の有無が前提または訴訟の対象となるのであり、全体の換地計画が訴訟の対象となるわけではない。従つて、土地改良法による換地処分につき争点訴訟を認めるとすれば、土地改良法の趣旨目的に反するということはできない。

(2) また、本件換地処分の無効を前提とする争点訴訟において、換地処分が当然無効であるという理由により控訴人が従前の土地につき所有権を有するとされて、所有権確認、土地明渡等の判決が確定したときには被控訴人は当該判決に拘束されないが、本件換地処分の無効につき争点が生ずるので、被控訴人は判決の趣旨に従い、土地改良法所定の手続により新たに換地処分を行わなければならないこととなる。また、行訴法第四五条の争点訴訟において、このような争点効の理論が認められないとすれば、行訴法第四五条で準用されている第二三条の訴訟参加によることなく、民訴法の補助参加の規定により換地処分をした被控訴人を補助参加させるか、または訴訟告知をすることにより判決の効力を被控訴人に及ぼすことができるわけである。

のみならず、行政実務に照して、判決の効力が行政庁である被控訴人に及ばないとしても、控訴人が争点訴訟で勝訴したときには、控訴人の従前地が第三者に換地処分されている関係上、被控訴人がこれを放置することが許されず、被控訴人は、争点訴訟の当事者に関係がある従前地につき、改めて換地処分をやり直さざるをえないから、これにより事実上の解決がはかられることとなる。従つて、争点訴訟が許されるとすれば、裁判所が従前の土地につき換地処分をしたのと同様の効果が生ずる、ということはありえないのである。

右のような次第であつて、本件換地処分の無効確認訴訟が認められないとすれば、控訴人の権利の救済をはかることができないということはできない。よつて、本件は現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない場合に該当しないので本訴は不適法である。

三  次に控訴人は、土地改良法の換地処分の法的性格、特徴を理由に、換地処分の無効確認訴訟が認められるべきであるとも主張している。しかし、右主張も次に述べるとおり理由がないものと思料する。

(1) 既に述べたとおり、争点訴訟または処分の無効確認訴訟のいずれの場合においても、施行地区または工区全体の換地計画、換地処分が訴訟の対象となるわけでなく、控訴人が無効を主張している当該換地処分の効力の有無が争点訴訟ではその前提となり、また無効確認訴訟では訴訟の対象となることに変わりがない。

本件換地処分につき、これらの訴訟において、当然無効であるとする判決がなされたときには、右換地処分には公定力が生じているということはできないから、控訴人の当該従前地につき換地処分がなされていない状態となる。すなわち、控訴人勝訴判決により本件換地処分がなされなかつたのと同様の効果が生ずるだけであり、裁判所が控訴人の当該従前地を換地とする換地処分をしたと同様の効果が生ずるものではない。

従つて、土地改良事業の施行者である被控訴人は判決の趣旨に従い、控訴人の当該従前地の換地処分及び当該従前地を換地とした関係権利者の換地処分をやり直すことになるのであり、換地処分の無効確認判決に限り、施行地区または工区全体の換地計画または換地処分が当然無効になるということはないのである。よつて、控訴人の主張するように換地処分の性格から無効確認訴訟が認められなければ控訴人の権利または利益の救済をはかることができないということはできない。

(2) 控訴人は、おそらく無効確認訴訟においては、行訴法第三八条で同法第三三条の判決の拘束力に関する規定が準用されるので、紛争の蒸し返し、すなわち、将来、同一理由による換地処分の繰り返しを防止することができるから、無効確認を求める利益があると主張しているものと窺われるが、前項(2)において述べたとおり争点訴訟では行訴法第三三条が準用されていないので、拘束力が処分庁及び関係行政庁に生じないのであるが、争点である本件換地処分の無効につき、争点効が認められるべきであり、仮に認められないとしても、民訴法による補助参加の規定の活用により判決の効力を処分庁に生じさせることができる。また、行政実務上も処分庁が争点訴訟の判決を無視して同種の処分を繰り返すということは信義則上許されないものといわなければならない(行訴法は行政庁の訴訟参加の場合でも上訴権だけを認めている)。

のみならず、行政処分の無効確認訴訟は処分による権利侵害を排除することを目的とするから、当該処分を離れて、将来の同種の処分を防止するための純然たる予防訴訟としての機能を認めることは、行訴法第三六条の立法趣旨に副わないものといわなければならない。

(3) しかも、無効確認訴訟では、判決の効力が第三者に及ばないから、判決の拘束力が処分庁である被控訴人に生じたとしても、控訴人の当該従前地を換地とする換地処分をうけた第三者に対し判決の効力が及ばない。従つて、本件換地処分につき無効確認判決がなされたとしても、これらの者が換地処分をうけた土地につき取得時効を援用したときは、被控訴人が当該換地処分を取消して、新たな換地処分をすることは事実上不可能であり、控訴人は結局権利の救済をうけることができなくなるおそれがあるが、争点訴訟ではこれを防ぐことができる。

右に述べたとおり行訴法第三六条の規定は行政処分の無効の場合における救済制度を原則として争点訴訟によらしめることとし、無効確認訴訟を制限しているのであり、控訴人主張のような理由(換地処分の性格)により本訴が許されるという根拠にはならないものと思料する。

第二  本案についての主張

控訴人は本件換地処分が土地改良法(昭和三九年六月二日法律第九四号による改正後の法律)第五三条第一項第二号の照応の原則に違反し当然無効であるとし、その無効事由として、本件従前の土地の東側の改良区域外の土地は宅地化しており、本件従前の土地は地目が田となつているが、将来の宅地化が見込まれるので、換地処分にあたつては、将来の宅地としての用途、利用条件についても考慮されるべきであり、これを考慮していない本件換地処分は当然無効であると主張している。

しかし、本件換地処分がなされた昭和四四年一月一〇日当時(但し、土地改良法第五四条第四項の公告は同年二月一四日である)は勿論、現在においても本件従前の土地及び附近の農地が控訴人の主張するように近く宅地化されるという客観的状況になかつたことは明らかである。しかも、本件土地改良事業の施行地域である小松並木工区は、農業振興地域の整備に関する法律(昭和四四年七月一日法律第五八号、同年九月二七日施行)施行後、神崎町において農業振興地域整備計画に基づき農用地区域に指定されており、これを農地以外に転用するには同法の制限をうけることとなつている。従つて、本件従前の土地が客観的にみて将来宅地化が見込まれていたということはできない。

のみならず、土地改良法により土地改良事業として行う区画整理及びかんがい排水施設の整備等は農地としての利用の増進を目的とするものであつて、土地区画整理法による土地区画整理事業のように公共施設の整備改善及び宅地の利用増進を目的とするものではない。このように土地改良事業の区画整理は、不規則に存在する圃場を適正な圃場に整備することが主要な目的であり、しかも本件工区は、従来、田越の水を利用して農耕していたという経緯があつたので、農地の両側に用水路と排水路をそれぞれ配置し、各組合員の換地が用水路及び排水路にいずれも接するように区画整理することが計画されていたのである。このため、控訴人が字寺前に所有している農地だけを従前の土地として換地をすることになると東西に長細い形状となることが予想されたので、被控訴人の工区長などが控訴人に対して同人が本件工区内に所有する他の農地と交換分合するなどの方法により地形を整形化することを勧告し、換地計画を樹立するにあたり、訴外日改仁兵衛が換地としてうけることになつている神崎町小松字関六三四番田六九四平方メートルと控訴人の換地予定地同所六三六番田一〇八四平方メートルとが隣接しているので、これを利用しての交換案もしくは控訴人の換地予定地である同町小松字夏母五九四番及び五九五番の両土地と日改仁兵衛の換地予定地同町小松字寺前五七五番の土地(本件換地の隣接地)との交換案などにつき協議してきたが、控訴人はこれに応じなかつた。そして控訴人は本件従前の土地につき字寺前に換地することを希望したので、被控訴人は昭和四二年に本件換地部分を同人の一時利用地に指定したところ、控訴人はこれに対して何らの異議を申立てることなく、本件換地処分がされるまで同土地で耕作を継続してきた経緯があるため、被控訴人は本件土地に換地処分を行つた次第である。

右に述べたとおり、本件換地を含めて小松並木工区が将来宅地化されるという見込が全くなかつたのであるから、被控訴人が本件換地処分にあたり宅地としての利用条件を配慮しなかつたとしても本件換地処分は適法有効であつて、当然無効であるということはできない。

(控訴人)

第一  被控訴人の本案前の主張について

一  被控訴人の抗弁は、要するに、本件換地処分の無効を前提とすれば控訴人は、控訴人の従前地を換地として指定を受けた者に対して、従前地の所有権に基づいて土地明渡請求等の現在の法律関係の訴を提起できるから、本件無効確認訴訟には訴の利益がないというにある。そして、本件において被控訴人主張のとおり換地処分に基づく登記等の手続がすべて終了していることは認める。

しかし乍ら、控訴人が求めているのは右控訴人に対してなされた換地処分の無効確認だけなのであつて、被控訴人らの行つた土地改良事業そのものや、換地計画の全体を否定しようとするものではないのである。ところで控訴人において、右換地処分の無効を前提として、従前地の所有権を主張して、訴外日改仁兵衛をはじめとする隣接の換地配分を受けた者に対し、土地明渡等の請求が可能であるとするならば、右控訴人の従前地の部分だけに限り土地改良事業や全体的換地計画が排除される結果となる。これは土地改良法の趣旨・目的に根本的に反することになることは明白である。またかゝる訴訟が許されるとするならば、右土地改良事業や全体的換地計画に基づき、公法上の強権的公権力の発動としてなされる行政処分(換地)を排除し、あたかも従前地の位置・形状を同じくする換地処分がなされたのと同様の請求が許されることゝなり、行政処分を司法機関が強制する義務付け訴訟を認容する結果になる。かゝる訴訟がそもそも認められないことは明白である。

二  換地処分は、換地計画にある従前地の全ての位置・範囲の変更を行うものであるから、個々の権利者に対する換地処分は単に少数の権利者に対する換地処分との関連を有するに止まらず、他の多数の権利者に対する換地処分とも密接な関連を有しているのであつて、このため換地処分の効力発生時期についてもこれを区々とせず、換地処分が行われた旨の公告のあつた日の翌日をその効力発生時期として(法五四条の二第一項)、多数の権利者の権利関係を一挙に変動させ、もつて権利関係相互の矛盾・衝突の生ずるのを防いでいるものである。

このような換地処分の性格からすれば、個々の権利者に対する換地処分が、換地計画に存する瑕疵(法五三条一項)を理由に取消され(少くとも取消訴訟が提起し得ることは争いがない)、または無効と確認された場合には、右いずれの場合にも、その結果は次々と他の多数の権利者(区域内の全権利者)の換地処分にも波及して、必然的に換地計画の変更(法五三条の四)を必要とし、場合によつては事業計画そのものゝ変更(法四八条)が必要とされる。逆に言えば、抗告訴訟によつて換地処分が取消された場合には、当該取消にかゝる従前地が単純に復活し、換地がなされなかつた状況にすることを法が予定しているものではなく、その場合には処分の取消によつて、当該権利者に関連する土地の位置・範囲が確定されなかつたという状況になるだけであり、速やかに行政庁による換地計画の変更若しくは事業計画をも含めた計画変更という新たな処分をさせようと予定していると解さざるを得ない。

かように解釈しなければ、取消す旨の判決によつて当該権利者の従前地が他の権利者の換地と重畳的に復活すると解することゝなり、法が制度的に回避しようとした権利関係相互の矛盾・衝突を却つて惹起させてしまうからである。

かように理解すると、換地処分に対する抗告訴訟のうち、無効を主張する場合には、行訴法三六条との関係で、換地処分の無効、従つて従前地の土地につき他の権利者がその者に対してなされた換地処分により使用収益している部分の明渡を請求し、若しくは従前地の土地の位置・範囲の登記簿を改めて創設せしめて、何者かゝら抹消若しくは移転登記請求をせよ(誰に対して、どのような登記請求をせよと構成するのか全く不明である)とする民事訴訟若しくは争点訴訟しか許されないと理解するのは、誠に滑稽である。

仮に百歩を譲り、右の民事訴訟等が許されるとすると、前述したとおり、行政庁が定めた処分を司法権により一方的に覆えす結果となり、三権分立の大原則に反することゝなる。しかもその内容を検討すると、民事訴訟の結果当該土地を奪われた他の権利者は、換地計画の変更が制度的に確保されないのであるから、従前地と比較して著しく少ない面積の土地しか換地されなかつた結果になり、これは照応の原則(法五三条一項)に反すること明らかであり、また他の権利者に対して民事訴訟を提起し得ることゝなつて、前述のように権利相互の矛盾・衝突のための際限のない訴訟が行われる結果となる。法がかゝる状況を予定し、承認しているとは到底解することができないものである。

第二  控訴人の本案の主張

本件換地部分を含む字寺前の土地は、改良区全体から見ると端の部分に存在し、道路を挾んで東側の改良区域外の土地は宅地化しており、地目は田となつているが、将来の宅地化が見込まれていた。

現在、東側用水路はU字溝が敷設されているが、宅地からの雑排水が流入しており、右用水路からの取水でも農業用水に適するが、将来は田としての耕作が出来なくなる虞れがある。千葉県内では土地開発が急速に進んでおり、下水道の完備は遅れているところ、本件換地部分は右のように宅地に隣接していて、土地開発の中で農地として永続する見通しが少ないのである。純然たる農用地と異つて宅地化が見込まれる農地については、換地の照応性の判断において、農地としての用途・利用条件と同時に、将来の宅地としての用途・利用条件についても考慮されなければならない。

まず、換地の農地としての利用を考えると、従前地の道路に面する部分が約八〇メートルであつたのに対し換地は約八メートルであつて、農作業に支障を来たしている。用排水についてみるに、従前は、寺前地区の中央に水路があり用排水に利用していたが、当該土地は乾田であつて特に排水路がなくとも耕作に支障は無かつたのである。現在でも右地区は、西側の排水路から取水をしていて、別個の排水路がなくても耕作に支障がないのである。現在では東側用水路にU字溝があり、北の部分にある吐水口から用水路を経て取水することもできる。さすれば、控訴人が主張するように原判決添付図面(三)のように換地したところで、訴外日改仁兵衛の土地も控訴人の土地も共に用水路の面で何等耕作に支障がないのである。

将来の宅地化という観点から考えると、道路に面する部分が八メートルで細長い土地では宅地としての利用には重大な支障がある。

これに対し訴外日改に対する換地は、従前地に比較して、農地としても宅地としてもその利用条件の改善には格段の差がある。控訴人に対する換地が農作業の面でも、将来の土地利用の面でも著しく不利益であるのに対して、日改に対する換地が著しく有利なのである。本件換地は、結局照応の原則に反して無効と言わざるを得ない。

(当審における証拠)〈省略〉

理由

控訴人主張の請求原因一の事実は当事者間に争いがない。そこで、先ず、本件訴えの適否について判断する。

〈証拠〉によれば、被控訴人が土地改良法に基づいて設立された土地改良区であり、控訴人が本件訴訟で無効確認を求めている処分は、被控訴人が同法の規定によつて行う土地改良事業の必要上、所定の手続に従つてなされた換地処分であつて、右処分が公権力の主体たる公共団体がその行為によつて直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められた行政事件訴訟法三条二項の「行政庁の処分」にあたることは明らかであるから、本訴は同条四項にいう行政処分の「無効等確認の訴え」に該当するものである。そして、同法三六条によれば、行政処分の無効等確認の訴えは、当該処分に続く処分(いわゆる後続処分)により損害を受けるおそれのある者、その他当該処分の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができるとされているところ、本件処分は、被控訴人の主張するとおりこれに基づく登記等の手続がすべて終つてすでに完了していることは当事者間に争いがないのであるから、本件処分に対する被控訴人によるいわゆる後続処分が行われ、これにより控訴人が損害を受けるおそれがあるものとは認められない。従つて、本件訴訟の適否は、控訴人が本件処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつてその目的を達することができないものであるかどうかにかかるものというべきであるが、この点の基礎的事実関係についての控訴人の主張は必ずしも明瞭であるとは云いがたいものがある。そして、若し控訴人所論のとおり、本件処分が無効であるとすれば、控訴人はこのことを前提に、依然として従前の土地である前同所七六三番田七一七平方メートルの所有権を失つていない筋合いとなるのであるから、控訴人としては、その所有権者として、当該土地について換地による現在の所有者とされている者を相手方として当該土地の所有権の確認、所有権に基づく明渡、或いは登記抹消手続請求等の訴えを提起することができ、これによつてその目的を達することができるものと考えられるのである。そうであるとすれば、控訴人は本件無効確認訴訟の原告適格を欠くものであつて、本件訴えは不適法であるといわざるをえないものである。

これについて、控訴人は、多数の権利者に関係する換地処分の性格、或いは、土地改良法の趣旨、目的を挙げて縷々反論するが、換地処分が多数の権利者に関係するものであるとしても、控訴人が従前地の所有権を主張して前記の如き訴を提起するに格別支障があるとは解し得ないし、また右訴えにおいて換地処分が無効とされても、従前地と位置・形状を同じくする換地処分がなされたのと同様なものとなるわけではなく、司法機関が行政庁に斯かる内容の行政処分を義務づけたり強制したりする結果となるものでないことも改めていうまでもない。もとより、本件換地処分が前示の如き訴訟形態による裁判の前提として無効とされることになれば、被控訴人としては事実上換地計画の変更等を含めた換地処分のやり直しを迫られることがありうるとしても、そのことのゆえに、行訴法三六条の適用上本件無効確認訴訟が適法として許容されるものということはできない。控訴人の主張は採用できない。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく控訴人の本件訴えは不適法であつて、これを適法として本案判決をした原判決は不当であるからこれを取消し、本件訴えは却下することとして、行訴法七条、民訴法三八六条、八九条を適用し主文のとおり判決する。

(田中永司 安部剛 岩井康倶)

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